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ホンとに本と。 井坂健一郎 Kenichiroh ISAKA

 『絵画の教科書』 と 『美術鑑賞宣言』 という本をご存知ですか?
春頃だったと思うんですが、 井坂健一郎さんからご紹介して頂きました。

大まかに分けると『絵画の教科書』は理論書と技法書が一冊になった絵画の入門書、『美術鑑賞宣言』は本格的な鑑賞教育テキスト。どちらも日本文教出版株式会社(http://www.nichibun-g.co.jp/ )から発行されています。日本文教出版は昭和30年から美術の教科書を発行。オサルスも多分ここの 『図画工作』 の教科書で勉強したのだろう? と、思うけど・・・かなり昔の話なのでスッポンと記憶が・・・ない。
  小学校、中学校と美術の授業は何をしていたのか? やっぱり覚えているのは絵を描いていたか工作をしていた事かな。自慢じゃないけど美術だけは一番いい評価をもらっていたんだよね。でも、最近は美術の授業は減らされる一方らしい。数学や英語も大事だと思うけど、合理性と利便性ばかり追いかけるのも如何なものかと?


今日は山梨大学 教育人間科学部 助教授(専門領域/絵画・インスタレーション)の井坂健一郎さんと[本とにホント]です。
でも〜9月半ばなのに何で甲府は暑いのよ。

・・・井坂さんは作家でもあり美術に関する学術論文も書かれていますが、個展は年に何回くらいされているのですか。

 「定期的というわけでもないですが、今回グループ展がたまたま連続してあります。新作は写真の作品です。自分でバケットのようなものを作って、四角い小部屋のような所にインスタレーション的な感覚で造形して、それを写真に撮っています。基になっているのは夢とか特異な体験というものがあって、今回名古屋で発表したものは、幼少の頃から病気になると必ず見る夢があって・・・」

・・・へぇ〜。どんな夢なんですか?

「自分が寝てる姿が浮かぶんです。その周りに小人が千人から二千人赤い服を着て太鼓をぶら下げてマーチングバンドを組みながらタッタカ、タッタカと自分を応援するかのように周りをグルグル回るんですよ。それとか巨大な豆腐の塊が出てきて、それを何者かが大きな包丁で賽の目に切るとか・・・。それをそのままやっているわけでは無いんですけど、そこが最近の作品の発想の原点なんです。・・・ハハハハ。

 使う素材は身近なものなんです。箱の中には角砂糖とかホチキスの芯を使っています。これは名古屋で「鏡像として」というグループ展で発表したものです」

[ 「鏡像として」(Part 2)出品作家:井坂健一郎、大崎正裕、北野裕之、武蔵篤彦
会期:2003年9月23日(火)〜10月5日(日)(月曜休廊)
   1:00pm〜8:00pm
会場:VOICE GALLERY(ヴォイス・ギャラリー)
   京都市上京区河原町今出川2筋下ル東側 清和テナントハウス2F
   TEL.075-211-2985   http://www.voicegallery.org]

・・・夢を表現として現そうと思われたのは何回か見たからですか?

「それもあるかもしれませんね。ただ夢を表現したいというわけではないんですが・・・」

・・・井坂さんとの出会いは1996年のかねこ・あーと・ギャラリーでした。それから随分作品が変わってきて、ご自分のなかではどういうものを根幹として発表されているんですか?

「僕の立ち会ったその場その場に、何か自分の思いを投影したいとか・・・場の別の姿をみたいとか何かを暗示したいという事で・・・allusionという言葉が好きですし、タイトルにしています。暗示するとか仄めかすという意味です。場を変貌させるという意味を含めています。
又二年くらい前の秋山画廊の個展には和紙と写真を組み合わせたもの。去年のペッパーズギャラリーの個展では皮膚を、それらを平行して発表しています。いつも自分のイメージをそのスペースに瞬時に現したいという気持ちがありますね」

・・・ここは山梨大学 教育人間科学部、何を教える学校なんでしょう。

「教育学部が母体なんです。
  この学部には学校教育課程 、生涯学習課程、 国際共生社会課程、ソフトサイエンス課程などがあり、僕は 学校教育課程の美術教育専修 を教えています。
僕の研究室では、実技と理論の双方から絵画とインスタレーションの可能性を探求する授業を試みています。また、次の世代の子ども達に、どのようにして美術の表現、および鑑賞の楽しさを伝えていくかということも研究しています。その他、映像メディア表現や写真表現、身体表現等の『現代美術』に関しても研究しているんです」

・・・そうすると卒業してやはり先生に。

「学校教育課程は教員養成ですから、美術なら美術の先生になりますね。生涯学習課程には芸術運営コース というのがありまして、生涯学習に関する幅広い知識を習得した上で、芸術運営全般における実践的手法を経験的に学んでいきます。
そして将来、さまざまな文化活動の企画・運営・教育普及の場面で、 『創り手』 と 『見る側・聴く側』 の間に立ち、芸術と社会との適確な橋渡し役となれるような芸術運営担当者(学芸員、コンサートマネージャー、企業ならびに公共団体の芸術支援部署担当者など)の育成をめざしているんです。6年前に出来まして、2学年卒業生がでているんですが、学芸員の求人も少ないので中々厳しいようです」

・・・先生も学芸員も一度なったら中々止めないでしょうから、新しい風は吹き込まれないのじゃないですか。
ところで本をご紹介して頂きたいのですが、私の大学時代の友人が中学校の美術の先生をしているんですけど、その中学がかなり校内暴力が凄くて殆ど授業が出来ない状態だと聞きました。
『美術鑑賞宣言』 の中にも同じような事を書いている方がいて、そんな中で美術をどうやって教えるのか凄く興味がありますね。学校だから点数をつけなくてはいけないし、評価の基準をどこにおくのか・・・私の友達は 『いかに楽しく授業を受けられたかを基準にしている。』 と言っていました。本の中にも楽しくという事が必要だという箇所が随分あったように思いますが・・・正直に言って私にはこの本は結構難しかったし判りづらい部分もありました。

 「『美術鑑賞宣言』は、鳴門教育大学助教授、美術教育の研究者の山木朝彦先生を中心に、大学、高校、中学校、小学校といった学校現場の先生と美術館の学芸員たちが自分のまなざしと気づきを出発点に、そこから浮かび上がった問題意識や考えをそれぞれ執筆しています。元々教師向けに書いているんですよ。
今、教師も悩みが多いんですね。小学校でも中学校でも時間数が削減させられて、試験期間や学園祭の期間になれば、美術が真っ先に潰されるとか、入試間際になれば他の科目に振り返られてしまうとか・・・そういう状況の中で、それでも生徒に伝えなければならない事はあるわけです。
その短い時間の中でどう伝えればいいのか?時間数だけではなくて、小学校や中学校の教師が知らない事が多いまま教えているのが現状です。新しい学習指導要領の中でそれをどうやって自分で噛み砕いて、その短い時間の中でどう教えていいか判らない人がいるんですよ。

 例えば漫画やアニメも出てくるし、インスタレーションとか現代美術を教師が見たことがなかったり、作った体験もないので、それでどうしていいのか判らないという現場の声も多いんです。そこでその悩みを少しでも解消できるように、この本は主に中学校の教員をターゲットにしているんです。ですから一般の人が読むと判りづらい部分やリアリティーがない部分があるかもしれません。でも一般書店に置いてありますから装丁のデザインも一般の人にも受け入れられやすいようにしています。
  こちらの『絵画の教科書』はかなり売れてるみたいですよ。もう第四刷が好評発売中です」

・・・井坂さんの書かれたインスタレーションの項を拝見して、インスタレーションの意味を再認識しました。

 「インスタレーションの鑑賞をあまりまとめて本に書いたものは無かったんです。特に判りやすく書いたものはないですね。
  今まで印象派位までの絵の見方やセザンヌやピカソなどの絵の解説はかなりあると思うのですが、それ以降の美術にどのように一般の人が触れていくか・・・専門書は一杯ありますが、美術は専門家だけのものではないですし、専門家以外の人の方が多いわけですから、その方達がいかにして美術に接していくか、美術を特別なものと思わない為に、美術というのはこういうものですよとこの本で語ろうと・・・まあ、ページ数が少ないので色々な事は書けなかったんですが、僕は中学校の教科書に出てくる川俣正さんの作品を取り上げてみました。今ここの大学の授業で実践している事を書いたんです。
  鑑賞する目というのは、色々な作品を見る事だけでは無くて、自分が絵を通して体験して始めて見る目が養なわれます。小中学校の学習指導要領が新しくなって作品を作る事だけではなく鑑賞する事が重要視されてきた事もこの本を書いた要因です。


(教育人間科学部の学生が、穴について制作したリサーチワークブック)

又、『絵画の教科書』の中では、自分のリサーチワークブックを元にしながら
(リサーチワークブックは国際バカロレアの造形・美術部門において課している『リサーチワークブック』に井坂さんが着目したもの)

 数年前から高校、予備校、大学のそれぞれの美術の授業で実践してきました。制作のアイデア、作家研究、美術鑑賞、批評、歴史研究、理論研究などを記録するもので、美術作品を制作する過程において、非常に重要なサポーターとなりえるものなんです。普通作家はしっかりした形はとらなくても、過程をエスキースやプランニングをして形として残しています。
又、メモみたいな紙切れを残している人もいると思いますが、制作過程を大事にしていると思うんです。ただ、学校教育の中ではその辺がカットされていて、絵画なら紙の上での色やバランスだけを教えて、しかもそれだけで評価してしまう。絵の裏側にあるような部分、例えばその人その人の個性や人間性をみないような指導が多くあるので、もう少しその裏側を見る事が必要なのではないかと。その為にもその作品が成立する背景や過程を記録するようなものがあればということで、リサーチワークブックをこの本の中で薦めているんですよ。

  子供に限らず専門教育を受けているような人もそうですが、リサーチワークブックを通して自分を容易に見つめ直す事ができる。又、学校という中では指導者と生徒のパイプ役みたいなものなんです。作品一点だけでは判りきれない事が多いので、制作過程を記録するようなものがあれば、この人はこの時、こういう事を考えていたんだと本人というか生徒が気づかなくても、教師側が汲み取る事もできる。勿論教師も汲み取る力を持たなければ駄目なんですけど・・・。
そういう意味で単に絵を教えたり、教育方法を教えるだけではなくて、いかに生徒個々を、三十人、四十人いれば何十通りのものがある訳ですからそれを短い時間で見る事が出来るかが必要なのです。その為には教師自身が制作過程に起こる様々な出来事や試行錯誤を体験しなければいけないし、色々なパターンを知らなければいけない。
  例えば教育実習に行って教育指導案を書いて指導案通りに授業が出来たかという事は、教育実習においては評価の対象ですが、指導案通りに出来る事はいいことではなくて、それは一つの教師側の案なわけですから。普通は案の通りに動かないし動かない方が面白かったりする訳です。

  特に美術や図工の授業は、生徒が思いもかけない発言をしたりとか、ドキっとするような事があったりするんです。予期せぬ発言をした時に、その芽を摘んでしまわないように育てていく柔軟性が必要なんです。
教師がその意見をねじ伏せてしまって、思い通りの授業を進めて、まるで設計図があって模型を作るように、はい、終わりと、確かに短い時間の中では、何か形にはなるかもしれないけれど厚みのないものになってしまうんですよね。
綺麗に出来たものだけを評価するのではなくて、失敗したりとか、あるいは作品が出来ないって事があってもいいと思うんです。サボって出来ないのは駄目なんですけど、一生懸命やって色々試行錯誤の結果、出来ないという結果を生み出したわけですから、それを評価すべきなんです。
ただ文部科学省の出している評価基準は色々な細目があって、こういう事が出来たからとか何々が出来たからというような事だけで見てしまうんですよね。確かにそうすると教師も生徒も楽は楽なんです。この基準があるから、これが出来たからとか出来なかったから駄目なんですよと納得するわけですからしかしそういうものじゃない。だからその辺が矛盾していてどうにかならないものかという風に我々は考えています」

・・・ああすればこうなるという事ばかりを教えても・・・世の中はああすればこうならないという事ばかりだから、それを教えないと逆につまずくんじゃないですか。

「こうならなかった時にどうするかというところまでいけばいいんですが、現場の教師に言わせれば時間が無いという事になるんです。週の時間数にしても年間の時間数にしても少ないですから、それでも伝えなければいけない事があって、そうするともうやる事が自然に決められてしまう。小学校中学校でも学校によっては教師の専門のところだけを教えてしまうんです。
例えば絵画なら絵画ばかり教えて、立体はやらないとか。立体が専門なら絵はあまり描かないとか。それは以前からありましたが、受けての生徒側も主要科目ではないからやらなくなってしまうんですよ。今後その開きがより大きくなるんじゃないでしょうか」

・・・そうなると学校には美術自体が無くなってしまうのですか?

 「そうですね。無くなる方向も考えられますね。あるいは音楽や他の芸術教科と統合してしまうとか、学校教育から外そうという意見を持つ人もいるので・・・。 国事態が理系や科学、医学の方に力を入れていくような傾向がありますし大学でもそうですよ。去年ここの大学も医学部と統合したんです。やはり医学部や工学部が中心のような感じになって、文系は二の次になりますね」

・・・お金にならない限り価値が無いという事ですね。『ゆとり』教育と言っていてもゆとりは何処にあるのかな。

「文部省も大学の今後の在り方に於いても社会にどれだけ貢献しているかで判断されて、今後数年後には教官も大学自体も査定があって悪ければ廃止になります。医学や工学は企業とかとジョイントして研究開発が続けられますが、文系の特に美術や音楽はそうはいかないんです。
その辺が査定の基準になってしまうと非常に苦しいし、教員養成といっても枠が無い事もあるので、子供が多くいる所は採用も多いでしょうけれど、少ない地域もあるので全国を同じようにみるのはどうでしょうか」

・・・要するに美術は役に立たないものという事みたいですね。でも、役に立つ役に立たないという分け方は気に入らない・・・。でもこれからは美術の授業は変わるんだろうな〜。

「『美術を通して何を伝えるか。』といった問題意識をもった学生(美術教師)を育てなければ、美術あるいは文化を軽視するような子供達が増えていってしまうかもしれませんね」

・・・なるほど。少し異な事をお聞きしますが、井坂さんは作家であり先生でもあるわけですよね。始めに作家を目指そうと思われた動機はなんですか?

「今でも作家を目指そうとは思ってないんです。最近考えるんですが、自分が十代後半から専門的に勉強しはじめて、こんな絵が描きたいとか、誰々のような絵が描きたいとか目指すところがあったわけです。でも最近はそうじゃなくて自分を目指そうというか。そこからこういう作品が出来たのかもしれません。
 思い返せば、自分も 絵画とかインスタレーションとかいう『形』から入ったところがありますね。自然と美術の中から生まれてきた形態の中に自分を当てはめてその中で自分を表現しいたという事があったかもしれない。それもある種あまりよくない美術教育を受けてきたからかもしれないですね。
特に芸大や美大を目指すには高い競争率の中で合格という入試をクリアーするだけで勉強しているわけだから非常に狭いところで美術を考えてしまう。何年もそういう勉強をすればするほど、そこから抜け出す時間は、それに費やした時間の倍くらい掛かるんですよ」

・・・よく判ります。思い込むと抜けるのは厳しいですよね。

「自分の時もそうだけど、人の作品を見る時にそういう『形』で見てしまうから、自分が持っている美意識とか自分が持っている『いいという感覚』に当てはまらないとこれは駄目だとか判らないと言ってしまうんですよ。それがあまり凝り固まったものでは無くて、もう少し広い視野にならないかと・・・そういう事でこういう本が出てきたと思うんです。
判る判らないじゃなくて、専門的な機関をでていても見る目があるかどうか、逆に専門的に勉強していない人でも素直に作品を受け入れてくれる場合もあるわけですから」

・・・『美術鑑賞宣言』の中に書いてありましたが、夏目漱石が作品を見た時に電気が走るといっている行り、感じるという事はそういう事ですよね。

どうもありがとうございました。オサルスは教育の事はよく判らないけれど、井坂さんの言われるマニュアル化された美術教育というのはわかります。マニュアル通りに進めば必ず答えは出るものね。答えがはっきりこれだと判るものの方が安心するし楽だもの。
昔、松竹新喜劇の藤山寛美さんが 『子供が転んだら、何度でも助け起こせばええねん。転ぶのを怖がってはあかん。』 といっていたのを雑誌? で見たことが・・・生きていればつまずく事ばかり。人生はマニュアル通りには進まない。井坂さんの提言する 『脱・マニュアル化=自分の美術』 は、オサルスにとって教育に携わる人からの嬉しい一言でした。

 おっと忘れちゃいけない。実は甲府でほうとうを食べてきたんです。
  盆地のせいか甲府は暑いのなんの、とても熱いほうとうは食べられないので冷たいほうとう (おざら) をツルッとね。美味しかった〜。昔、河口湖で食べた時は中に入っていた南瓜を煮込みすぎて舌触りがザラザラしてあまり美味しいとは思わなかったんだ。
  さすが甲府は本場。ほうとうは武田信玄が野戦食として用いたものだそうな。おつゆの中の野菜といい、野沢菜といい。Very GOOD。値段も700円。 熊肉ホウトウやスッポンホウトウもあり、唯、量が半端じゃないよ。甲府に行ったら是非。お薦めです。

 場所 小作甲府北口駅前 甲府市北口一丁目4-11 055-252-981

井坂健一郎 関連情報 
2002.4 2000.6

「ASIAN STYLE IV 」 2003年10/20(月)〜10/25(土)
東京・銀座3丁目のペッパーズロフトギャラリーで、ペッパーズから参加した作家と海外作家を含んで韓国での展覧会のドキュメント展をおこないます。向こうでの制作過程や現地制作を写真とビデオをレポートで紹介する記録展です。

2003年10/27(月)〜11/1(土)まで、同じくペッパーズロフトギャラリーにて新作の個展をします。すべて写真作品です。

ペッパーズロフトギャラリー
東京都中央区銀座3-12-19里垣ビル
03-5565-0048
11:00-19:00
http://www.peppers-project.com

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