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オサルスのおすすめランチ ランチdeチュその104

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鴨せいろ 1500円

かやば町 長寿庵
東京都中央区日本橋茅場町1-9 三井住友銀行茅場町支店B1
TEL03-3666-1971

 佐賀町エキジビット・スペースで展覧会を見た帰り道、ずっと気になっていたのが左の写真、向かって右側のビル、そういえば新川のオープニングの帰りにも何故か写真を撮った覚えが。
理由は、レトロなビルの一階にあるバー? らしき灯火、一杯飲みながら、のんびりと川を眺めるのもいいかなって・・・多分そんな事だったと思う。

 そこを訪れる機会は、ある画廊での一言だった。作家どうしの話で 『今、茅場町が熱いみたいだよ。』
茅場町の画廊ねぇ。
どうも国民金融公庫の側らしいという情報をたよりに探してみると。かなり迷って到達したのは、あの気になっていたビル。
看板も何も出ていないので半信半疑で入ってみると、タグチファインアートの名前の郵便ポスト。
とりあえず四階へ。ドアを開けると、整然と作品が展示されていた。作家の名前は野村和弘さん。以前南天子画廊で写真を撮らせてもらったっけ。
でも、この展示スキがない。以前から空間を制するような作品を見たいが、オサルスの口癖なんだけど、空間自体は決して広くはない (失礼) のに、姿勢が凛としている様子が伝わる。それは暫く忘れていた体感だった。
それを言葉に出来ないもどかしさに、直感的に話を聞いてみたいと画廊主にお願いすると、今年は忙しいからとつれないお言葉。
じゃあ、来年お願いしますと頼み込んで実現したのが、2月18日。

今日はタグチファインアートの田口達也さんにお話を聞きしました。
田口さんのお薦めランチはお蕎麦。
こちらの長寿庵さんには、エキジビット・スペースの展覧会を見た帰りに立ち寄っていたとか。今はビルの地下にあるお店も、昔は平屋建てだったそうです。

でも、田口さん、自分は裏方だから、と写真を撮られるのが嫌いみたいなんだよね〜。

・・・このビルは凄く雰囲気のあるビルですね。

 「食糧倉庫と同じで昭和2年に作られたものです」

・・・ここで画廊を始めようと思われたのは、ビルを見た瞬間のインスピレーションですか。

 「いえ、たまたまです。それまで勤めていた横田茂ギャラリーを辞めてひとり立ちする時に、 『来年の春頃始めたらどう。』 と、横田さんと話をしまして、猶予期間が一年ぐらいありましたから、色々な所を見て廻って、色々な人に会いました。
あのビルを知ったのは3階にある中央FMの方とあるパーティーで席が隣あわせになって 『今、画廊の場所を探しているんですよ。』 と、お話をしたら、 『うちのビルも今空きがあるし、一度見に来たら。』 と、云われて、見にいったら気に入って」

・・・初めて画廊を拝見した時に、自然光が入るのはいいなって思いました。画廊というと普通壁に囲まれているから、息苦しい感じを受ける事もあるんですよ。スペースの関係上大きい作品の展示は厳しいですか。

「そうですね。エレベーターもありませんし」

・・・そうすると。普通のお宅にも置けるようなサイズの作品を意識されているんでしょうか。

「意識してないです。それはスペース上の制約ですから、作品を見て頂く場所は、あそこのスペースに限る必要は無いと思っています。つまり作家のスタジオにお客様をお連れして作品を見て頂く事は勿論しますし、それで充分だと思います」

・・・なるほど。場所は気に入ってはいるが、こだわりはないということですね。

 「画廊のスペースというのは一時的な場所なんです。作品が制作されてから画廊なり美術館なりに展示されて、最終的な所有者の手元に渡る、その過程であって、作品の命を考えれば画廊に展示される期間というのはほんの一瞬なんです。
勿論最善の状態で見て頂けるように展示の時はつとめますけれども、それが全てではないです。それは作品の命のなかで一瞬の出来事であって一部分でしかないと思うんです。作品を見て頂く場は、あのスペースでということだけに限らないと思います」

・・・話を少し変えますが、以前ある方から田口さんは、就職の時にあまたある学芸員の口を蹴ってギャラリーにお勤めになったと小耳に挟んだのですが、横田茂ギャラリーに入った切っ掛を教えて下さい。

「誰がそんなことを言ったのですか? 確かに当時は研究室にいくつも募集がきておりましたが、私は単なる落ちこぼれです(笑)。横田茂ギャラリーは指導教授の紹介です。先生に将来美術館の学芸員になりたいと話しましたら、それだったら画廊で働くのは勉強になるんじゃないかと云われて、たまたま横田さんのところでアルバイトを募集してまして、アルバイトを4年間。その後正社員で10年間勤めました。2001年に今の画廊を設立したのです。
  学生の目で見た美術館と実際の仕事の場所として見る美術館とは違うわけですよね。いいところも悪いところも両方見えるわけです。画廊と比較した時に、これは画廊も美術館と同じようにやりがいがあるなという風に思ったんですよ」

・・・組織のなかで働くのと、一人で働くのでは大きな違いがあると思うんですけど、画廊には作家と最初の段階から展示まで、一対一で話し合って仕上げていく醍醐味はありますね。昔と違って美術館もこれからは独自の企画を打ち出していかなければ人が集まらなくなってきているから大変な部分は変わらないかもしれませんけど。

「画廊の場合は展覧会を して終わりじゃないですよね。作品の嫁ぎ先を見届けてようやくそれで終わりですから」

・・・売るのはやはりたいへんですか?

「たいへんだたいへんだと云ってもしょうがないですから、でも元々現代美術は、そんなに簡単に売れるものだと思ってませんから。これが普通だと思っています」

・・・変な質問ですが、お子さんはいらっしゃるんですか?

「いえ。冗談で作家が子供みたいなものだと言っています」

お待たせしました。
天せいろ (1500円) と鴨せいろ (1500円) です。

長寿庵さんは明治40年の創業。こだわりの味をだいじにするお店。お店の方たちは皆てきぱきとして感じがいいし、先代のご主人がいい味だしてます。

実はオサルスは鴨好きなんです。冬は何といってもあぶらがのっている鴨でしょう。
鴨せいろは、鴨と下仁田葱? のタッグが最高。味がよく出ておつゆが美味い。これに山椒を掛けて食べるそうで・・・ん! 緊張しているせいか、竹のつつの薬味いれの栓がとれない・・・力任せにひっぱたら、山椒がドバッと・・・ア〜ぁ。またやっちゃった。
以前、銀座のお蕎麦屋さんを何件か紹介しましたが、量が少なすぎるのとその割には値段が高いのが難点。長寿庵さんの天せいろと鴨せいろの値段はオサルスには高いけど、一般的には妥当な金額かな。量もしっかりあって納得の逸品。
田口さん、こちらでは普段 “せいろ” を注文するそうです。

「せいろが一番蕎麦の味が判りますね」

me, too.です。

・・・ところで、タグチファインアートのサイトを拝見したのですが、画歴・個展・関連情報に参考文献、画廊のページで参考文献を出しているところは少ないように思いますが。

「うちはまだカタログを作るほどの体力がないので、それに変わるものとしてウェッブサイトを位置づけているんです。いわゆるアーカイブとして、ですからカタログや本、作品集をいつでも出せるようなデーターをきちっとウェッブの上で蓄積していくというのが、私のウェッブに対する考え方なんです」

・・・作家はどのように選ばれるのですか。

 「縁ですね。14年間横田さんの所におりましたので、そのなかで出来た縁です。 勿論独立してから出来た縁もあります」

・・・作家との出会いは、おっしゃるように選ぶ選ばないではなくて一期一会だとは思うのですが、やはり田口さんのなかに 『核』 の部分があって、それで選択は狭まってくると思うのです。
それを言葉にすると・・・ 『それは展覧会を見れば判ります。』 と、云われればそれまでなんですが、私は自分が知りたい事を聞きたいと思ってしまう質なので済みません。

「すごく抽象的ないい方かもしれないですけど、一番大切にしているのは謙虚である事と他者に対する敬意ですね。それがある事が一番大事ですね」

・・・なるほど。ネットで拝見したのですが、 4月にマグダレーナ・アバカノヴィッチの展覧会を予定されているという事ですが、日本では十何年ぶりですよね。

「彼女の新作を日本で見られなかったのは、彼女のメインギャラリーであるマルボロギャラリーが日本での活動を休止してしまったため、取り扱い画廊が無く なってしまったからなのです」

・・・彼女との出会いを教えて下さい。

「ドラマチックな出会いがあったわけではなく。縁があって展覧会をする事になりました。彼女は私がこの仕事をやろうと思った時に、機会があれば将来やりたいなと思っていた作家のひとりなんです」

・・・いい縁ですね。彼女の作品は1991年に見ただけでなんです。今回タグチファインアートのリンクでブロンズの作品とか石の作品とかを知ることが出来ました。凄くスケール感のある作品ですね。彼女の作品から東洋的なイメージを感じたんですが。

「本当かどうかしりませんが、元々は祖先がモンゴルの方の血を引いているみたいです。アバカノヴィッチという名前もそうですが・・・アバカーノ・・・チンギスハーン似ているでしょ。それは巡回展のカタログに書いてあります。それもあるかもしれないし、1930年にポーランドに生まれて生きてきたという事が、日本の敗戦とか被爆とか、そういうものと重なるものがあって、日本人は共感しやすいのではないでしょうか」

・・・1991年のセゾン美術館のあの首の無い人体には衝撃を覚えました。何年も前に見たものなのにイメージのなかに留まっていて絶対忘れないと思います。

「それはやはり形が訴えるものがきちっとあるからなんです。作品を通して彼女が何を訴えたいのか一貫してきちっとあるから、人々の心に響くんです。それが一番大事な事です。形や色だけではなくてね。
うちで扱っている作家は皆そういう作家だと思っています。表面的な形や色の問題だけではなくて、ちゃんとした・・・ 『コンセプト』 というと軽くなってしまいますが、思想・哲学を持っている人達だと思っています。ですから、こういう場で私が言葉で云うよりも展覧会を見て下さいと、それで判って下さる方には判って頂けると思っています」

・・・それは感じます。凄くきちっとした姿勢でやってらっしゃるのが、展覧会を拝見した時に伝わってきます。

「それは色々教えて下さった横田さんとか、横田さんが学んだ瀬津雅陶堂の瀬津巌さん。横田さんは、瀬津雅陶堂で修行された方で、元々古美術の畑の人なんです。
自分なりにお二人に学んだことを大切にしてやっていこうと思っていますし、お二人に対して恥ずかしくないようにといつも心掛けております。 瀬津雅陶堂さんは、ご存知ですか?」

・・・確か芸術新潮で連載を読んだ覚えがあります。実際にはお会いしたことは無いです。

「大変残念なのですが、数年前にお亡くなりになりました」

・・・そうですか。少し話を戻しますが、タグチさんは出版にも興味がおありなんですか。

 「ええそうですね。アーティストブックは出してます。横田さんのところには東京パブリッシングハウスという出版と美術書の輸入販売をしている会社があって、そちらの方を私は任されていたんです。ですから本は好きだし、色々勉強させて頂きました」

・・・東京パブリッシングハウスのページを拝見しましたが、研究書や希少な本が多くて英語が読めたらいいのになって思いました。

「あのサイトの立ち上げには、私もだいぶ関わりました。ですからうちのサイトとダブっている部分があります。アバンギャルドの部分はダブってます。日本では手にはいりません」

・・・そうですね。殆ど見たことない。

「本に限らずそうです」

・・・図書館で探すのも厳しいし、検索して探しても見つからないし・・・買わなきゃならないのが辛いかな。でも、本の世界は楽しいですね。以前山口啓介さんと話をした時に、作品も手にとって見れるようなものがいいなって話した覚えが・・・。

「本の魅力はそうですね。壁に掛ける絵だと一対一という関係はあまり意識されませんが、本だと一対一、インティメイトな感じで見られますよね。一枚一枚辿っていくと厚みとか、めくって次々見ていく時間の問題とか、連続性の問題とか、本はとても魅力的な一つの表現媒体です。
うちの取り扱い作家でも本にするのに相応しい作品があればどんどん作っていこうと思ってます。ですから中川佳宣さんの 『農夫の壷ーバラ科』 とか、去年は野村さんの 『レオナルド』 を作りました。これからもプランはいくつかあります」

・・・刷る所にリンクがあったような?

「活版印刷の工房です」

・・・以前シロタ画廊で山中現さんが詩画集を出す時に、 『今、活版印刷は活字があまりないんだよ。』 と、話を聞いた事があります。

「和文の活字を持っている所はいくつかあるんですけど、欧文の活字を沢山持っている所は本当にないんです。つまり活字はコンピューターと違いますから、同じ書体でも・・・例えばAが一つだけでは文章が出来ないんです。
そのポイント数の活字をいくつか持ってなければいけないし、その活字でサイズの違う活字も沢山なければいけない。一つの書体に関して物凄く膨大な活字が必要になるわけです。ですから日本で、それを持って今でもやっている所は少ないですね」

・・・へぇ〜。でも、できると素敵ですよね。

「そうですね。それもコラボレーションですよね。本を作る時は、アーチストと活版を使えばその職人さんと装丁家の人や製本をしてくれる人とそれをプロデュースをする自分ですよね」

・・・本は楽しいですよね。でも今はオンデマンドで出来ちゃいますから、本といっても質が違いますけどね。

「ものとしての本ではないですね。内容を読むには充分かもしれませんけど」

・・・ 『もの』 という言葉で思い出しましたが、版画家の柄沢さんが 『物質感なんだよ。』 と。ネットも情報としてはいいんですが、実際自分が展覧会に足を運んで絵を見てみないと判らない訳ですよね。だから物質感と言われると凄く判る。展覧会も実際に行くとか本でも手にとって見るとか、美術というのはそこから入ると判りやすいと思うんです。

 「元々そういうものです。本質的なものは変わらないと思います。本質的なものは昔からあってそういう仕事を続けている人達は、いつの時代でもいるわけですよ。地味で目立たないけれど、うちの画廊にくればそういう人達の仕事が見られると。そういう場所にしたいですね」

ありがとうございました。

マグダレーナ・アバカノヴィッチ 「メルキオール・ヨナ・8つの白い顔」展 は4月17日 - 5月29日。  
 ブロンズ彫刻とドローイングが展示されます。作品の高さは180cmくらいのものもあるそうです。

「まだ、内容は秘密ですが、皆さん、かなりビックリされると思いますよ」

と、田口さん。どんな展示になるか楽しみですね。

 思い出しましたが、瀬津巌さんといえば、1992年の芸術新潮2月号に 『阿吽の丸干し』 (新・掌の美) の話があって・・・いわしの丸干しの彫刻の話なんですが、その彫刻と伊万里の猪口がお盆の上に乗っている写真が掲載されていて、その阿と口を開けたいわしと、吽と口をつぐんだいわしの姿が、実にいいんですよ。
改めて読み返してみると 『作り手が他人の目を意識したとたんに卑しいものになるのは不思議である。』 という言葉にガテンがいきました。凛とした姿勢はスピリットがあるから生まれてくるものなんでしょうね。

え! 本当はあの丸干し旨そうだったから覚えてたんだろうって、やっぱりそう思うかぁ・・・。

余談ですが、GADENも本をつくる計画があるんです。出来たら見てね。

タグチファインアート http://www.taguchifineart.com/

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