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「食と現代美術part2」 石内都 2006年2月24日-3月14日

  オーシャンバー・バラ荘 横浜市中区野毛1-12  TEL045-231-8167 日・祝日休
  [ BankART 食と現代美術part2 美食同源 【横浜芸術のれん街】 http://www.h7.dion.ne.jp/~bankart/ ]

-「食と現代美術」はBankART1929主催の展覧会。昨年3月開催のpart1の続編として14日まで展覧しています。part1では、美術の視線を通して、食文化を中心とした生活の中に潜む、プライベート性、地域性、共有性、暴力性、批判性、時代性、空間性を解き明かすことを試みています。
part2は前回のコンセプトを継承しつつ、現代作家や建築家はもとより、能楽師、食研究家などの参加を得て、横浜の食文化を支えてきた老舗から、新進気鋭のオーナーがはじめたレストランまで、55店舗が参加する一大プロジェクトです-

【コメント】
本当はとても目立つような場所にあるのに、なぜかひっそりと息をひそめて、
なるべく人目につかないように十字路の一角にバラ荘はあった。
ドアを押すと半分しか開かない、
身を横にして中に入ったとたん 「ただいま」 と言ってしまう。
時間がゆっくり、ゆっくりと過ぎて、
バラ荘の中には塵のように堆積した時間の粒がベルベットの光沢に代わって光っている。
やっとたどり着いたバラ荘の住人に短いけれど私はなる。
(石内都)

・・・こちらに石内さんが、日曜日以外は毎日いらっしゃると聞いて来てみましたが、本当にいらっしゃったのでびっくりしました。今回の展覧会は、 BankART1929 周辺の飲食店 (店内に作品を展示するのは24店舗、また企画テーマに賛同して期間中に割引サービスとスタンプラリーを実施するのは 31店舗) に作家の作品が展示されているそうですね。

私はこのバラ荘に、作品を全部で7点展示したんです。銀座の HOUSE OF SHISEIDO で展示した作品は二点のみで、あとの5点はこの 「場」 に合わせて制作しました。はじめBarで展示するのは若干躊躇したんですけど、ドアを開けて入ったとたん 「ただいま」 という感じでしたね。

・・・私はこの近辺の出身なので、以前からこのお店は知っていたんですけど、入るのに少し勇気がいりました。でも中に入るとすごく落ち着いてしまい、ずっとここにたんじゃないかという感覚を覚えました。ギャラリーの 「場」 とは違う空間での展示は、如何ですか。

まさにライブです。ストレス解消にもすごくいいですよ(笑)。6時から11時までこういう雰囲気で過ごすのもはじめて。そういえば以前 「どぶ板」 で、潰れたキャバレー跡を改装して、展示したことがありましたけれどね。

・・・薔薇のシリーズは、いつ頃から撮られていたのでしょうか。

去年、バラの香りを研究している資生堂の科学者の方が、「薔薇のパルファム」 というエッセイ集を立ち上げる企画があり、私の写真を掲載したいので 「薔薇の花を撮ってもらえませんか」 という要望があったんです。

・・・薔薇はエロティックであり、妖艶なイメージがありますが、作品を拝見していると、枯れた薔薇もあり、「花は、きれいなだけじゃないぞ」 と言っておられるような(笑)。薔薇を 「人の一生」 のメタファーとして撮影されているような気がしました。

HOUSE OF SHISEIDO での展示 (2005. 12/7-2006. 1/29 永遠なる薔薇石内都の写真と共に) オープニングで、「写真家が花を撮ったら終わりだと思っていた」 と挨拶しましたが、なぜそんなこと言ったかといえば、美しいものを美しく撮ったからって、ありきたりで何でもない写真が多い。花は決して美しいだけじゃなくて、幹や葉や根も、一つの器官の一部でしかない、人間と一緒ですよね。
枯れていくということは、次の世代に繋いでいくことだけど。大地に根を下ろしていないと繋いではいかれない。それは切り花と生きている花の違い。切り花はデスフラワーと呼ばれ、生きている花はリビングフラワーと呼ばれる。私はリビングフラワーを撮ったんです。

・・・ヴェニスビエンナーレの前にアトリエ (http://www.gaden.jp/info/2004a/041127/1127.htm) に伺い、病気で乳房を切断しなければならなかった方の、キズの写真を拝見し、痛々しさをとても感じるけれども、凛とした美しさに圧倒された覚えがあります。それが花の作品にも通底しているように思うのですが・・・。

人間の生き方と一緒なの。私は花自身をとてもエロティックだと思うのは、薔薇の花びらというのは性器じゃないかと思うから。

・・・花が咲くというのは、性器を誇っているということですか。

受精すれば実がなるし、私はそういう象徴として感じています。
それに私が撮りたいなと思うのは、人間と同じで、皮膚みたいなキズみたいな、そういうものなんですよ。だからよく 「石内さんは何を撮っても石内さんらしい」 と言われますね。

・・・私もそう思います。しかしこのシチュエーションはすごいですよね。まるで 「連夜の街」 の写真集の中に入り込んでしまったような錯覚を覚えるというか。独特の匂いを感じます。
私は野毛の近くで生まれたので、懐かしいというよりも、ここが私にとっての横浜のような気がします。みなとみらい≠ヘ作られた町だけれども、ここは自然発生的に現出している。
コメントに書かれていたように、積層した時間が堆積されているような感じがありますよね。

そうね。空間にある時間の堆積が違うから、建物が、人に近いというか人間に近い。みなとみらいは非人間的というか硬質な作り物。ここはね。昭和28年にできた建物で、元々喫茶店だったんですよ。カウンターを作ったのが31年。昼間はとても明るいお店なのよ。

・・・みなとみらい≠ニいえば、みなとみらい駅は以前は海の底だったんです。普通のプラットホームには、目の不自由な方に 『エスかレターがありますよ』 というのを知らせるピンポンという音が鳴るじゃないですか。みなとみらい線はカモメが鳴くんですよ。
あの声を聞くと、とても寂しくなるんです。経済活動重視や利便性のために、どんどん街がメタモルフォーゼしていくような気がして、街の記憶が雲散霧消していくような悲しみを感じるんです。

私も、スピーカーからのカモメの声を聞いて、気持ちが悪くなりました。あれは最悪ですね。誰もいないのにカモメだけが鳴いている。寂しいですよね。だから私はあの線にはほとんど乗りません。

・・・元々この街は寂しい匂いがするんじゃないですか。ただその匂いが消されてしまうと街が死んでしまうような気がするんです。花もそうですよね。花も匂いがしなくなったら枯れてしまうわけだから。

匂いといえば、薔薇の香りの最上級のローズオイルは、ブルガリアで産出されていて、そこには 〈バラの渓谷〉 と呼ばれる谷がある。ブルガリアのバラは、花香の女王といわれ世界でも最高の香りを誇っているらしいのね。薔薇は人間にいちばん近い花だから、「薔薇のパルファム」 を読むと、バラが人の歴史とともにあるというのがよくわかるの。

・・・目で見たものとか、耳で聞いたものは、それなりに違いはわかるけれども、匂いについては人それぞれ違いますものね。

そう。指紋と一緒ね。五感の中でいちばんいらないのは匂いと思われているけど、実はそうではなくて、人間にとって匂いいはすごく大切なもの。匂いがしなければ食べるものも紙を噛んでいるみたいだしね。

・・・ここに座って、昭和28年に建てられたこの匂いに浸っていると、私が育ってずっといた街だから思うのかもしれないですが、自分の記憶の原風景を垣間見るような気がして、石内さんが 「ただいま」 という気持ちがとてもよくわかります。

それが現実的に 「今ある」 ということ。それもそのまま。それがすごい発見。今ここにバラ荘があるということ。だから 「ただいま」 と言いたくなるのよ。

・・・まさにライブということですね。ありがとうございました。 (取材・3月11日夜)

関連情報 2005.5 2004.11

石内都 マザーズ2000-2005 未来ミライの刻印 出版社:淡交社 出版年:2005

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