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やなぎみわ  -マイ・グランドマザーズ- 2009年3月7日-5月10日


東京都写真美術館
東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内 TEL 03-3280-0099
http://www.syabi.com/

 鈴木理策展柴田敏雄展に続く国内外で活躍中の旬の中堅作家にスポットを充てた展覧会の第三回目。
国立国際美術館と東京写真美術館の共同企画、やなぎみわさんは2009年6月に行われるベネティア・ビエンナーレの代表作家に決定しました。

(企画担当学芸員丹羽さんとやなぎみわさんとのギャラリー・トークのもようを、2009年3月6日に収録致しました)

 丹羽さん: この展覧会はベネティア・ビエンナーレが決まる前に計画されたものです。制作は1999年頃から、発表は2000年からになるマイ・グランドマザーズのシリーズをひとつの場所で全員そろえてみようということからはじまりました。その後にベネティア・ビエンナーレが決まったわけですが、やなぎみわさんのお仕事をまとめて拝見できる良い機会になるのではないかと思っております。マイ・グランドマザーズは写真数にして二十六点、映像作品一点、バースデイパーティーを加えて二十七点で構成しております。
2009年に誕生したグランドマザーズが三人おりまして二十九人ということでございます。

 やなぎみわさん;  マイ・グランドマザーズの展覧会がやっとしかも全点そろった状態で東京で開催されることになりました。2001年に大阪のキリンプラザ、2005年に丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、2004年にはドイツのグッゲンハイム・ベルリン美術館でも大きな個展がありましたけれども、東京ではなぜか作品が展覧されないままでした。
横浜トリエンナーレでは数点のグランドマザーズが紹介されただけでしたので、私にとっても念願の展覧会になりました。2000年から今までもう九年、十年近く、私が毎月制作をした2001年・2002年くらいまでの作品もありますし、Fairly Tale という別の作品を作っていてしばらくペースが落ちたりもしましたけれども九年間のグランドマザーズです。十一歳から四十歳後半までのいろんな年代のモデル、もちろんプロのモデルではなくて一般の方たちなんですが、日本以外もおりますし中には男性モデルも何人か入ってるんですけれども、性別年齢国籍ほとんど問わず五十年後を演じてみたいと思った人が応募をして、それを私がビジュアル化したということです。その繰り返しで、今まで少しずつ溜めた作品がやっと一同に会することができました。
今回は点数が多いので、そのなかから四点位の作品をピックアップしてご紹介したいと思います。

 グランドマザーズがスタートしたのは1999年でまだ私が Elevator Girls の作品を作っているころから構想がはじまりまして、そして2000年には作品が三点誕生するんですけれども、そのなかのひとつがこの 「YUKA」 という作品と 「SACHIKO」 「MIE」 という作品。この三点がいちばんはじめのグランドマザーズなわけです。
そのときはまだ美術館から公募していただいたりとか。例えば雑誌で募集するとかそういう手段がなかったものですから、私が少しずつ口コミで知り合いから広げていき、誰からやりたい人がいないかということで、そして応募してくれた何人かがグランドマザーズになりました。この時 「YUKA」 は二十二歳ぐらいだったと思うのですけれども、彼女が私のところに五十年後はこうなりたいというアイディアを文章で手渡しで持ってきてくれまして、そのアイディアを私が読みましてとても自分の老後としては考えられないような想像しがたい、それは自分からとてもかけ離れた未来の姿だったんですけれども、そういう方が私にとってはやりたいものだったのです。
といいますのは私自身が Elevator Girls の作品をそれまで作っていって、丁度その頃他人の強烈な欲望というか。そういうものが自分の中に入って来て作ってみるということを試みたいと思っていたところだったから、自分からは想像しがたい奇抜な未来像というものを持ってきてくれた「YUKA」ちゃんのアイディアからはじめようと決心しました。
そしてはじめの三人のグランマというのは、私にこうなりたいと語った通り忠実に作ってあります。ですから髪の毛が真っ赤になるとか、入れ歯にダイヤモンドが入るというような細かいディティールも全部モデルが希望したアイディアで、背景にゴールデンゲートブリッジがくるとか五十歳年下のボーイフレンドがサイドカーを運転しているとか、そういうものもひとつひとつモデルのアイディアを引き出して私が忠実に準備したものです。
そういうふうにスタートをしまして、そして2001年だったと思うんですけれども、ファッション雑誌から連載依頼がありまして、毎月一作のグランドマザーズを作るという企画を引き受けてしまったんですね。これが想像以上に大変で1年間どうやって作ったのか覚えてないぐらい毎月毎月グランドマザーズを作り続けたのですが、その時には比較的若いモデルを選んでいました。
二十代前半のモデルがほとんどだったと思います。そしてしばらく作っていたんですけれども段々私自身も年を経てそのなかで考えも変わり、そして段々とモデルが高年齢化してきたという現象が起こりまして、そのうちに三十代後半から四十歳ぐらいのモデルを選ぶようになりました。2004年に少しの間を置いてもう一度再会という意味で作ったのが 「AI」 という作品です。

 グランドマザーズ 「AI」 は実は私と同じ年齢の女性なんですけれども、非常に共感するところが多くてアイディアを聞いた瞬間にほとんどメール一本で全部わかったような気になってしまったというぐらい共感度が高いアイディアでした。このぐらいから少しずつモデルが私の年齢に近づいて来て少し年齢が高くなっていくんですけれども、若いモデル、つまり若い世代が創造する老後、老いの姿というものと、三十代で想像するもしくは四十代さらに五十代、六十代が想像する老いというのはそれぞれ違うものですね。
やはり年を追うに従って、例えば自分の体が段々と弱ってきたりとか、自分の親の老いや死をみたりとかをすることによって、ずいぶんと年をとることへの思いが変わってくると思います。ですから十代、二十代が思い描いた五十年後の老いの姿というものは、皆さんにはずいぶんと夢物語やファンタスティックな感じがするかもしれませんが、それはそれでその時にしか想像できなかった姿なんですね。
例えば二十二歳だった 「YUKA」 の作品。非常に元気でアグレッシブなおばあちゃん。ほとんど肉体の老化なんか関係ないような元気な姿もあるんですが、あとは逆にほとんど家の中から動かないで何かをずっと待っているような、そういう静かな姿があってもいいんじゃないかと思いましたので、「AI」 あたりから段々と私自身の考えが変わってあまり物語に依存しないというか。奇抜な物語でグランドマザーズは出来上がっているわけではないなということを自覚して、ストーリー自体は非常に平凡であったりしても、もしくは一見ネガティブに感じるような未来の姿であっても、それはそれなりに大事なひとつのグランドマザーズの作品になるというふうに思いました。
このあたりからわりと老いというものを受け入れるタイプの老人の姿に変わっていくような気がして・・・今やっとこうやって作品を見返すことで気がつくことがあります。この時はずいぶんとエキストラもいて撮影自体は非常に大変だったんですけれども、グランドマザーズの老いということに関して考え方としてはいちばん互いに共感が得られたモデルさんでした。家で細々と占い師をしているおばあさんという設定で、近所の子供から小銭をまきあげて占いをするという意地悪なおばあさんなんですけれども、子供に対して未来を失望させるようなことを言っては泣かせるんですね。
なんとなく若さのようなものを自分で諦めていくように説得するような、それは自分に言い聞かせているような何かそういうところが私自身も俯に落ちるところがあって、それでこれは非常に力を入れて作った作品です。

 次に 「ESTELLE」 ですが実は男性モデルなんです。確か年齢が高いモデルだったと思います。男性がグランドマザーズをやることをはじめは考えていなかったのですけれども、将来おじいさんになるよりもおばあさんになる方が自分にとってリアリティーがあるという男性のアイディアということで、だったらそれもありかなと思いました。
今三人の男性モデルが(一見わかりませんけれども)います。因みにグランドマザーズはだいたい本名がついているんですが、「ESTELLE」 は彼のおばあちゃんの名前です。絵はがきをずっと待ち続けるという設定なんですけれども、自分の孫やひ孫や古い友人たちから来る絵はがきをこの部屋から出ずに待っている。とても静かな生活なんです。この絵はがきは私が描いた小道具ではなくて、実際にこのモデルである人が家の中に全部持っていたもの、このモデルの名前はデイビッドというのですが、デイビッドが自分のおばあさんに宛てて何年間もかけて書いた絵はがきで、彼のおばさんが老人ホームで亡くなった時に枕元に積んであったものを見せてもらい、それを全部壁に張ったんです。
ですから 「ESTELLE」 に関しては、彼は非常に老婆に憧れがあって自分もなってみたいという気持ちもあったんですけれども、デイビッドの祖母である 「ESTELLE」 へのひとつのオマージュでもあるということです。これもインタビューはそれほど長くない作品だったんですけれども、私が非常に共感を得て作った非常にシンプルなグランドマザーズです。

 次は新作のどれかひとつをご紹介しましょう。「MITSUE」 「MOEHA」 「MARIKO」 の三点が新しい作品でして、グランドマザーズは実は久しぶりの制作だったんですね。しばらく Fairly Tale の作品を作っていて、今ベネティアの作品を全部新作で制作中なんですけれども、そのなかでグランドマザーズを並行して作るというのは、確かに時間と労力も大変なことではあるんですけれども、私にとってグランドマザーズというのは、ひとつのコラボレーションということもあり、非常に開かれた感じなんですね。あまり制作していて苦しくはない。自分の内面と非常に厳しい状態で向き合うものではなく、もう少しモデルとの話し合いによって、非常に暖かいものを作っていくようなそういうシリーズなんです。
ですからそういう意味で細く長く続けていくことができると思うんですけれども、今回もモデルを探していて偶然三名の方が見つかりました。この 「MITSUE」 は 「AI」 や 「ESTELLE」 と同じでとても静かなストーリーなんですね。ただストーリーと言えるのかどうかわからないですけれども、冬のはじめという設定なんです。
この庭は私のアトリエのそばに全部創作した庭なんですけれども、言ってみれば生死の境がわかりにくいような・・・冬を越すことによって、もしかしたらそこで枯死するかもしれないし、もしかしたら春になったら芽吹くかもしれない。そういう植物の生き方というか、大地の息吹といっしょに呼吸をしながらそのなかで自然に生きてそして老いて死んでいくという。そういう一体感を感じさせるような、そういうアイディアを持ってきたモデルなんです。
冬なのに何故バラがあるのかといえば、これは冬咲きのバラという設定なんですけれども、モデルは非常に植物が好きな人で、自分の庭から少しずつ運んでくれたものをいろいろ混ぜながら私自身で庭を作って、そしてモデルにこういうふうに大地と一体化してもらったという作品です。冬とともに逝くこともあるし、もしくは冬を超えることもある。それは自然にまかせるがままという。達観したわけではないのですけれどとても静かなそういう心境のものということです。
今回の新作はまた若いモデルに戻ったんですけれども、五十年間半世紀後の自分を演じるにあたって、自分の人生をこうやってストーリー化して私にくださいというよりも、ストーリーではなくひとつのシーンを大事にしてひとつの絵として私がモデルといっしょに話しながら想像することができたら制作をはじめようという感じで作ることができたと思います。九年間いろいろありましたからグランドマザーズにも変遷がありました。これからも少しずつかもしれませんけれども、作り付け続けていきたいというシリーズです。
少し話をかえますがベネティアの作品を今制作していますが、グランドマザーズが二十九点あってその制作ひとつひとつがまた次のシリーズの制作にエネルギーをくれているような気がします。因みにベネティアの作品は老女も登場する非常に巨大なモノクローム写真なんですけれども、作品が巨大だけではなくて巨大な女性のポートレートを作っています。
その制作にあたってこのグランドマザーズの九年間の制作がひとつの素地になっているというか。ベースになって私にエネルギーをくれているような気が今しています。それを感じながら次の作品を作り続けています。

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